灯すラボには、「おもしろい未来をつくる」という言葉がたびたび登場します。インタビューでも、最後に「あなたにとって“おもしろい未来”とは?」という問いを投げかけることにしています。
聞かれた人は、たいてい、ちょっと迷います。おもしろい未来って、なんだろう? 聞いておきながら、自分でもパッと答えられる自信はありません。
何を「おもしろい」と思うのか、「未来」ってどれくらい先のことか。人によって、思い浮かべることはさまざまでしょうし、問われるタイミングや流れによって、答え方も変わりそうです。
これ!という正解は、きっとありません。だからこそ、誰かに尋ねては考え、別の人に尋ねては考え、少し間を置いてまた同じ人に問うては考え、その過程もまるっと共有していくのが、「実験室」としての、この灯すラボという場の役割なのだと思います。
先日開催した、第8回うちやま百貨店。その締めくくりとして、「有田のおもしろい未来を語る」というテーマで交わされたトークイベントの模様を、今回お伝えします。
イベントは二部構成。第一部は、株式会社和える代表の矢島里佳さんと、灯す屋の理事3人とのトークからはじまります。
第一部
矢島 里佳(やじま りか)株式会社和える 代表取締役
職人と伝統の魅力に惹かれ、日本の伝統文化・産業の情報発信の仕事を始め、大学4年時の2011年3月、「日本の伝統を次世代につなぐ」株式会社和える創業。幼少期から感性を育む“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナルの日用品を販売。2021年8月より、灯す屋さんのリブランディングを、伴走応援中。
佐々木 元康(ささき もとやす)特定非営利活動法人 灯す屋 代表理事
佐賀県有田町出身。大学院卒業後、製薬会社へ研究員として就職。2015年、有田町地域おこし協力隊としてUターンし、空き物件の活用と移住・定住支援を柱に活動。2018年8月に退任、同月NPO法人灯す屋を設立し代表理事に就任。
橋本 優(はしもと まさる)特定非営利活動法人 灯す屋 副代表理事
栃木県宇都宮市出身。大学卒業後、家具メーカーで勤務。2016年、妻の地元・佐賀県大町町に移住。地域おこし協力隊として、空き家活用・改修に従事。2018年より有田に暮らしの拠点を移し、NPO法人灯す屋理事に就任。空き家に住む人、移住者など新たなチャレンジをする人とともに、デザイン&DIYで暮らしをつくる活動を行う。
上野 菜穂子(うえの なおこ)特定非営利活動法人 灯す屋 理事/事務局長
北海道札幌市出身。イランの国営放送局に15年間勤務、ラジオの番組制作などに携わる。2017年、帰国と同時に地域おこし協力隊として有田町に移住。空き家や移住の相談を受ける他、食や文化など暮らしを豊かにする企画に携わる。2020年4月退任し、同月NPO法人灯す屋事務局長に就任。ちゃわん最中プロジェクト担当。
大学4年時の2011年に株式会社和えるを立ち上げた矢島さん。
日本の伝統や職人の手仕事の魅力を伝えるため、日用品やギフトの開発、空間プロデュースや教育プログラムの企画運営、伝統産業の素材のふるさとである里山の利活用まで、「伝統×〇〇」のさまざまな事業を展開してきました。
灯す屋代表の佐々木さんは、そんな矢島さんを「恩人」と話します。2018年、NPO法人として灯す屋を起業するかどうか迷った際に、背中を押してくれたのが矢島さんだったそう。さらに2021年の夏からは、組織のリブランディングを矢島さんに依頼。月2回の壁打ちや伴走を通じて、灯すラボの構想が立ち上がってきた経緯もあるそうです。
灯す屋の成り立ちや、和えるのリブランディングについては、下記の記事でそれぞれ細かく紹介しています。ぜひご覧ください。
https://tomosulab.com/articles/tomosuya/
https://tomosulab.com/articles/yajimarika/
関わる地域や領域、規模の違いはありつつも、お互いに似ているという灯す屋と和える。2つの会社の共通点はどこにあるのでしょうか。
その糸口となりそうな、矢島さんのエピソードからご紹介します。
矢島:19歳か20歳のときに、焼きものの職人さんを取材したんですよね。わたしは、きっとものづくりが大好きな方なんだろうと思って、お話を聞いていたんです。そうしたら、その方の口から、『ぼくはゴミづくりをしているんじゃないかって、心配になるんだよ』という一言が出たんですよ。
自分がものをつくらなければ、世界のゴミは増えない。つまり、人がものづくりをやめれば、地球上の環境問題も起きないよねとおっしゃるんです。そのときの言葉が今でも忘れられなくて。
わたしは、人間が心豊かに、楽しく暮らすためには、職人さんのつくる美しいものが必要だと思っています。ものをつくることが悪いのではなく、すぐに捨ててしまう消費者、そして、捨てさせることで次の新しい経済を生み出そうとする企業。この関係性に問題がある。わたしたち人間が生み出した資本主義経済という装置、仕組みが今、老朽化して劣化して、成り立たなくなってきたんだろうなと感じています。
株式会社とNPOって何が違うの?という質問は、佐々木さんもよく受けると思うのですが、究極そこの差がなくなることが、わたしはこれからの社会のなかでの、企業の目指すべきあり方のひとつになっていくと思っています。
佐々木:うち(灯す屋)もNPOっぽくないとよく言われます。資本主義にもいい部分はある。NPOだからといって、(事業を継続していくために)稼ぐことを放棄しないで考えるのは大事なことですよね。
矢島:わたしたちも、「美しく稼ぐ」ことをいつも考えています。売り手も買い手も、世間も、さらには環境や地球まで。三方よし以上、5方6方に対して、可能な限り想像力を働かせて、どうすれば悲しむ人が極力生まれないビジネスができるのかということを、すごく追求しています。
佐々木:お話を聞きながら、自分たちが言いたいことも含めて言ってもらったような気がするくらい、近いことを我々3人でも話しているなと思いました。そのあたり上野さん、聞いていてどうでしたか?
上野:美しく稼ぎたいですよね。灯す屋では、佐々木さんが「こういう事業をやりたい」ってアイデアをよく持ってくるんですけど、それは何のためにやるんだろう?っていう話は必ずします。3人が納得したうえではじめることを、すごく大事にしてきました。
矢島:日本人同士でも、じつはみんな外国人だと思って話したほうが、わたしは真に通じると思っていて。たとえば「これおいしいよね!」って食べたときに言いますよね。でも、おいしさってすごく曖昧で、「どうおいしいと思ったの?」って聞くと、人それぞれ違う「おいしい」が出てくる。
どこがどうおいしかったのかをちゃんと言葉にすることで、少しずつ意思疎通が滑らかになっていく。和えるのリブランディングはまさにそんな感覚です。“灯す屋語”を一緒につくっていったことで、会議のスピードもすごく変わりましたよね。
佐々木:矢島さんたちと一緒に話していくなかで出てきた一番大事な言葉が、「おもしろい未来をつくる」ということです。おもしろいってなんなのか、思い描くものは3人とも違うんです。でも、それぞれにとっておもしろそうな未来を描けるから、自分たちはこの仕事を楽しくやれるし、有田で前向きに生きていける。そのことに気づけたのが一番大きなポイントでした。
矢島:どうしたら「おもしろい」がもっともっと増えていくのかと考えるなかで、今回の灯すラボの概念も出てきたんですよね。灯すラボには、どんな人に、どんなふうに関わってもらいたいと思っていますか?
橋本:過去の自分みたいな人に関わってほしいなと思っています。 かつてのぼくは、何かものづくりをしたいなと思っていたけれど、あれこれ先のことを考えてしまって、一歩踏み出せなかったんです。安全そうなレールの上を走って人生を送ってきたような気もしていて。
ここで、何か自分がやりたいことに向かって舵を切れる、そういうきっかけが灯すラボでつくれたらなと思っています。
佐々木:届けたい人たちのことを、ぼくらは「ムズムズ系クリエイター」って言っていますね。
上野:こうあるべき、っていう常識にとらわれて、息苦しさや違和感を感じている人が一歩踏み出すお手伝いがしたいです。小さくても新しいことに挑戦してみたいっていう人と関わって、一緒に何かできたらなと思います。
矢島:今日もうちやま百貨店を佐々木さんと一緒に回らせていただいたら、「このイベントをきっかけに、いつもと違う自分に会えた」と、何人かの出店者の方が佐々木さんに話されていました。普段のお仕事では、いつもの範囲でマンネリ化していたり、心地よいなかにとどまって働いていたけれど、それを脱することですごく楽しかったとおっしゃっていたのが印象的だったんですよね。
矢島:灯す屋さんがこれまで活動してこられたなかで、すでに“灯すラボ的なこと”は起きていたのだろうなと思うんですよ。でもそれを「灯すラボ」という概念に落とし込むことで、意識的に枠をつくり、それぞれの研究が進めやすくなる。灯すラボがあることで、そういう体質がこの有田のまちにもっと広がっていくのではないかなと、わたしは思います。
それこそ、最初は移住支援などをしていた灯す屋さんが、なぜ「ちゃわん最中」をつくりはじめたのか? これもじつは、灯す屋さんがすでにはじめていた灯すラボ的な取り組みですよね。
上野:そうですね。ちゃわん最中は、有田のお菓子屋さんで昔つくられていたお菓子なんですけど、20数年前にお店が閉じるのと同時になくなってしまって。空き家だったお菓子屋さんを地域おこし協力隊のサテライトオフィスとして使ったのがご縁で、復活させる機会をいただいて、2020年3月に商品化したものなんです。
わたしたちがつくりたいのは、最中ではないんですよね。ちゃわん最中は、皮とあんこを分けているので、好きなものをトッピングできます。中身が自由ですよっていうコンセプトにすることで、いろんな人たちに関わってもらおうっていう取り組みなんです。
ちゃわん最中を通じていろんな人とコラボレーションしたり、どうやって世に出していこうって考えたり、実験してみる。それをお披露目するうちやま百貨店のようなイベントがあって、そこからまた新しい出会いが生まれて。そういうサイクルを回していくのが灯すラボなんだと思います。
佐々木:今回、灯すラボのWebサイトをつくりました。これをメインでつくった副代表の橋本から、どういうものなのか説明してもらってもいいですか?
橋本:灯すラボは、ゴキゲンな仲間づくりのプロジェクトです。そのなかで、おもしろい未来に向けてチャレンジしている人を紹介するのが、Webサイトの役割だと考えています。
大事にしたいのは、成功の側面だけを見せないことですね。サイトに載っている方は、どんな失敗をして、どうそれを乗り越えていったのか。失敗も含めてさらけ出していくと、わたしにもできるんじゃないかとか、やってみようって思ってくれる人も出てくるかなと思っていて。そういうものをつくっていきたいなと思います。
佐々木:もがきながら前に進もうとしている人たちが、このまちにはたくさんいるので。そういう人たちのことを知って応援してほしいし、その人たち同士がつながって、またさらに進むっていうことを起こしていきたいですね。
第二部
第二部のテーマは、「おもしろい未来を共有し、次世代につなぐ」。
有田に暮らし、有田でそれぞれの仕事をしている3人を迎えて、それぞれがつくりたい未来の話を交わしました。ゲストは、聡窯4代目の辻拓眞さん、有田まちづくり公社の大塚隼輝さん、そして賞美堂本店の蒲地亜紗さんです。
辻拓眞(つじ・たくま)聡窯
1992年有田町生まれ。大学で美術を修学後、有田窯業大学校、窯業技術センターに勤める。現在は陶磁器作家として器や絵画、インテリア等を制作、公募展への出品、百貨店での展示会など全国各地で活動。
大塚隼輝(おおつか・としき)株式会社有田まちづくり公社
大学卒業後、2015年に有田に移住。無口でちょっと変わった性格。好きなものは読書と音楽。最近の休日はVRをして過ごす。
蒲地亜紗(かもち・あさ)株式会社賞美堂本店
1988年有田町生まれ。大学卒業後、信用調査会社、コーチングファームに勤務。2017年家業である有田焼商社に入社、2021年より代表取締役専務を務める。商品開発、販売企画、広報を担当。
佐々木:今回お呼びした3人は、年齢もまだ若いんですけど、話していて、ただ言われたことをやっているのではなく、想いを胸に秘めながらいろんなことに取り組んでいるように感じるんです。この人たちのことを伝えたいと思って、声をかけました。
はじめに自己紹介を。まずは辻さんからお願いします。
辻:はじめまして、こんばんは。聡窯(そうよう)っていう、窯元の4代目の辻拓眞と申します。
いわゆる作家の家系で、土の状態から焼きあがって完成させるまで、一連のものづくりを自分一人でやっています。
うちは日本画がルーツなんですね。初代が画家をやっていまして。それもあって、聡窯のものづくりの軸になっているのが、薄くした焼き物に絵を描いて、額に入れて飾る陶板作品です。
なかなか今、建築とか住居にものを置くスペースがない。でも壁だったらいっぱいあるよね、っていう提案なんです。焼き物なので、色褪せないんですよ。自分たちの思い入れのある風景を額に入れて残したいっていうふうに、依頼を受けてつくっています。
有田の焼き物って、ロクロでつくるイメージが強いんですけど、わたしはレンガのようにパーツを積み上げて、砦のような、建築物のような作品を最近よくつくっています。どちらかというと、工芸品というより美術品に近いものです。
辻:水も入れられない、ただのオブジェなんですよね。矢島さんのお話にあったように、もしかしたらゴミをつくっているのかもしれません。そんなものづくりの活動をしています。
大塚:有田まちづくり公社の大塚と言います。もともと鳥栖出身で、有田には7年前に引っ越してきました。
普段何をやっているか。今日もうちやま百貨店のなかで披露したんですけど、浪曲っていう、明治時代から戦後にかけて日本で流行った芸能をやっています。本当は三味線を弾くんですけど、弾けないので、ギターを弾いています。
大塚:有田の地域を記録するローカルレコーディングのレーベル「NOW HERE」にも参加しています。今年は陶土屋さんを取材して、映像とか冊子を制作しました。
そして、これはライブ風景ですね。VR上で、電子音楽のライブをやっているところです。真ん中のかわいいユニコーンちゃんがぼくです。以上です。
蒲地:株式会社賞美堂本店の蒲地亜紗と申します。よろしくお願いします。
地元有田で育ち、大学は神奈川へ進学して、東京の信用調査会社とコーチングファームで働いておりました。結婚を機に、実家を継ごうということになりました。たまたまわたしの場合は、夫が会社経営に興味のある人だったので、4年ほど前に帰ってきまして、今に至るという感じですね。
賞美堂本店は、焼き物業界のなかで産地商社と呼ばれる、いろんな窯元さんの作品を消費地、東京ですとか、そういったところに届けて、お客さまとつないでいく立場の会社です。
わたしたちは、「時代を超えて美しく」というテーマで、有田焼の伝統紋様を100年後の食卓に残すっていうことを掲げています。厳密に言いますと、伝統紋様が選択肢としてある状況を残したいと思っています。シンプルなものや、モダンなものもあるなかで、伝統的なものを選びたい方が選べる状況を残していきたいなと。
矢島:今の、選択肢として残すという言葉が素敵だなと思いました。和えるが取り組んでいることも、まさに一緒なのです。
日本の伝統を、わたしは知らないで育ったんですよね。それで、知ったときに、自分の美意識とぴったりきたのです。赤ちゃんや子どもたちに、無理やり押し付けるのではなくて、出産やお誕生日のお祝いに贈ることで、こういう世界もあるよと体感してもらう。やがて大人になったときに、そういう選択肢も持っている状態をつくることが大事だと思っています。
蒲地:そうですね。たとえば100円ショップの食器が悪いとか、伝統があるから素晴らしいとは思っていなくて。選びたい人が選びたいときに手にとれる場所にあるように、提供し続けたいという気持ちです。
佐々木:みなさんありがとうございます。
今日は、「あなたの考えるおもしろい未来ってなんですか?」という質問を事前にさせてもらっています。それぞれ詳しく聞いていきたいなと思います。
3人の考える、おもしろい未来
辻さん:有田の外から来た人の“落胆”にピントを合わせる
大塚さん:AIと一緒にものづくりできる未来
蒲地さん:選択肢を残すこと、つくること
佐々木:では、まずは辻さんから聞いてもいいですか?
辻:はい。有田は、焼き物をやりたい、自分でものづくりしたいっていう人が結構来るまちなんですね。ちょっと前までは、窯業大学校もありました(2019年閉校)。
その若い人たちがうちによく出入りしていたんです。作業場を貸してもらえませんか?みたいな感じで、仕事終わりに自分のつくりたいものをうちでつくる。そういう人たちと一緒になって、ぼくもものづくりをしてきました。
ひとりで作陶していると孤独な時間も多いので、それぞれ目標を持ってものづくりしている人たちが身近にいる環境は、すごく刺激があったし、楽しくて。ただ一方で、食べていけるだけのお金を得られずに、有田を去っていく人が結構いるなってことにも気づいたんです。
逆に自分はすごく恵まれていて、家業も作業場もある。有田の外からおもしろい未来を思い描いてきた人が、有田に来てよかったなと思える環境をどうすればつくれるかなっていう問いは、ひとつ自分のルーツとしてあります。だから、離れていく人はどこに“落胆”を感じているのか、そこにピントを合わせていきたいなと。
辻:もうひとつ、作家という立場は今後どうなっていくんだろう?っていうことが、ぼくは気になっています。
ぼくがやっているのは、古(いにしえ)の作家像です。百貨店の美術画廊でものを売っています。うちは作家では珍しく、従業員さんを雇っていて。自分たちの売ったもので雇用できているという意味では、なんとかやっていけているんですよ。
現代の作家像は何かっていうと、SNSで自分のつくったものを発信して、売る。バンバン売っていくから、結構忙しいです。それで食べていけたとしても、忙しさはなかなか解消できません。
作家としては、つくりたいものがつくれていれば幸せなんだけど、体調崩したらどうする?とか、新しいことに挑戦するとか、そのための余裕がなかなかもてない。だから、未来の作家像っていうのを、まさに今考えているんですね。こういうモデルケースをつくれたらなっていうのがあって。
…すみません、長くなっているんですが、もう少ししゃべっていいですか?
矢島:未来の作家像って何?って、きっとみなさん待っていますよ。ぜひ。
辻:これは灯すラボのインタビューでも話したんですけど(※)、安いものを大量につくって売るよりも、高額でも付加価値をたくさんつけて、ひとりの人に届けるほうが、すごくやりやすいんですよね。それは自分が作家をやっていて思うことなんですけどもっとみんなもやれないかなって、ちょっと思っているんです。
※辻さんのインタビュー記事はこちらからお読みいただけます。
https://tomosulab.com/articles/tsujitakuma/
自分が最近衝撃を受けたのが、博多駅の1階で焼き物の展示をしてたりするんです。自分たちは今まで百貨店の6、7階にある美術画廊で展示をしていたのに、ほとんど焼き物に興味のない人たちが行き交うなかで、焼き物を展示・販売していると。
ぼくの大学の先輩に、古賀崇洋さんっていう、甲冑のお面みたいなものをつくっている人がいて。それに価値がついて、焼き物にまったく興味のなかった人にも売れている。この現象が、もしかしたら未来の作家像のひとつなんじゃないかとぼくは思っています。
佐々木:作家さんって、高く売れるものを、少数売るというやり方の人が多いのかなと思っていたんですけど、そうではないんですか?
辻:ぼくもそういう世界だと思っていたんです。でもじつは、そうでもないのが現実で。
ここは言葉を選ばないとむずかしいんですが、世の中の市場にあるものを、ちょっと差別化したものづくり、ぼくはクラフト寄りって思っているんですけど、これは案外安い値段で提供している人も多いなと思って。
値付けだったり、つくるペースだったり。そのあたりの感覚を少しでも変えていけたらいいんじゃないかなと思っています。
大塚:YouTubeをやってるのも、関係ある?
辻:そうですね。作品の良し悪しはもちろん、その人が好きでものを買うっていうこともあるなと思って。ぼくはYouTubeをよく観るんですけど、会ったこともない人について、ものすごく詳しくなる現象が起こるんですよ。もしかしたら、そういうふうに自分をまず知ってもらってから、作品を買ってもらう道もあるのかなって。
佐々木:今のお話、焼き物を売る側の仕事をしている亜紗さんから見てどうですか?
蒲地:以前は商社が作家さんを育てると言いますか、世に送り出して、力がついたら独立するような形だったのが、今はInstagramとかで発信されて、最初から人気者っていう方もいらっしゃるんですよね。なので、作家さんと商社のつながりもあまりなくなってきていて。
そういったなかで、たぶん辻くんが今言葉にしてくれた問題意識とか課題提起って、この産地のなかで発信していくトピックとしてはすごく勇気のある発言だったんじゃないかなと思います。このことについて、何が正しいかをああだこうだ言うんじゃなくて、私も含めてですけど、一緒に考えてくれる人が増えたらいいなと思います。
矢島:まさに、「ワクワクする未来をつくろうよ」というお誘いをここで公にしてくださったのかなと思いました。一緒にディスカッションしたり、ブレストしたり、斜めからの思わぬアイデアが飛んでくるなかで、未来の作家像というものがよりリアルに生まれてきそうだなと感じました。
辻:自分も、今の自分が言っていることが絶対的な正解だとは思っていないですし、まさに模索段階で。よそから来た人も、有田を一緒につくる人なんですよね。だから、いろんな人がいろんなことを言ってほしいし、それによって自分の考えが変わって、新しいものが生まれたらいい。自分とは違う立場や考えの人ともっと関わってみたいですよね。
矢島:今の話でつながっていくのが、大塚さんの「AIと一緒にものづくりできる未来」。AIもある種の“よその人”かなと思うのですが、いかがでしょうか?
大塚:ぼくはもともとAIが好きじゃなくて、敵だと思っていたんですよね。だけど、敵を知るにはまず使ってみようってことで使ってみたら、ハマっちゃいました。
矢島:引き込まれた魅力は、なんだと思いますか?
大塚:ぼくが使っているのは、テキストを画像にするAIなんですけど。この内山の通りをピカソ風に描いてくださいって文章を入れたら、そういう画像が何万通りも出てくる。そこをうまく調整しながら、思い描いた画像を出力するっていうのがおもしろいですね。
矢島:そうすると自分の問いかけ方や、伝え方で、AIさんもかなり趣向を変えてくるのですか?
大塚:はい、変わりますね。1ワード違うだけでガラッと変わるんです。だから、こっちも困惑したりしながらやっています。
矢島:それってある種、AIと対話をしているようなものですよね。
辻:ぼくもAIを使ってみているんですけど、AIに指示を出すのも簡単じゃないですよね。絵を描く技術と同じように、言葉で指示を出すことも、ひとつの技術になってくるんじゃないかなと感じます。
大塚:AIで画像を大量生産しているだけだと、やっぱり虚しくなってくるんですよ。そこを打破するために、今回のうちやま百貨店で行った展示では、一旦AIでつくった画像を、シルクスクリーンでシャツにプリントするということをやりました。人間の手を通すと、愛着が倍増、倍々増していくんですよ。そういうものづくりもありかなと思います。
矢島:今のお話を聞いておもしろいなと思う職人さんがいたら、一緒に組んでみるとよさそうですね。AIとだいぶ仲良くなっている大塚さんとともに、その方の技術を和えてもらうと、また灯すラボがおもしろくなりそうですね。
その次の、蒲地さんの「選択肢を残すこと、つくること」のお話もしていきたいです。AIとともにものを生み出すのも選択肢だし、先ほどおっしゃっていた伝統紋様を残すのも、ひとつの選択肢ですよね。
蒲地:わたしは今日のお話を聞くまで、AIで何かつくるっていう、そんな発想が出てくるとは思いもしなくて。こうやって選択肢が広がっていくんだなと感じています。
わたしが小さかったころって、もし会社を継ぐとしたら、成功して高級車に乗るんだ!みたいな、そういうイメージで。現実は全然違うんですけど、すごくイメージが偏っていたなって思うんです。
灯す屋さんの活動を間近に見ながら、今のほうがおもしろいなって、自分で思えるんですよ。それはなぜかなって考えたときに、いろんな人が関わっていることをすごく感じていて。
佐々木さんみたいに内山地区のことを取り組んでいらっしゃる方とか、灯す屋の橋本さんや上野さんみたいに全然違う県からいらしてたりとか。地域活性化は地元の人がするものだと思っていたけど、そうじゃない。
いろんなパターンのいろんな生き方の人が出てきて、それが誰かのモデルになったりしていくんだなって感じるので。自分もその選択肢の一つになれるような生き方をしていきたいなって思います。
一方で、窯業界の選択肢はいつまでもあるわけじゃない。わたしは当たり前に継いで、帰ってこられる状況にあったんですけど、業界のなかでやっぱりいろんなところに綻びが出てきていて。経済的な理由で、継ぎたいと思っても継げない人もいるかもしれません。
売り手である商社としては、お客さまからいただくお金をどういうふうに分配していくのか、とか。そういうことに取り組んでいかないと、そもそも今ある選択肢すらなくなってしまう危機感を持っています。
灯すラボを通じていろんな人と交流して、選択肢を知ったり、新しくつくったり。子どもたちをはじめ、これから選択していく人たちにとっておもしろい未来が生まれていくんじゃないかと、今感じています。
矢島:今日のイベント全体の素晴らしいまとめをしていただいたような感じがします。佐々木さん、いかがでしょうか?
佐々木:すごく勉強になりました。ありがとうございます。灯すラボはまだはじまったばかりですけど、この取り組みにどんな意味があって、どんなことがこれから起こっていくのか、その片鱗は伝わったんじゃないかと思います。ぼくらも知らないところで、いつも何かが起こっている。そんな状態を、有田の日常にしていけたらいいですよね。
たまに失敗もしながら、楽しく、おもしろくやっていきますので、ぜひみなさん、これからも関わっていけたらなと思います。今日はどうもありがとうございました。
文章:中川晃輔
灯す屋のプロフィール
灯す屋は、佐賀県有田町を拠点に、
一人ひとりがおもしろい未来を描ける社会をつくることを目指して活動するNPO法人です。
灯すラボ、ちゃわん最中、うちやま百貨店などのプロジェクトを通して、
様々な人たちがおもしろい未来をつくるための場や機会を提供しています。