2023.01.27

「今」を面白がれば、人生の選択は彩りあるものになっていく。【小筆】

「今」を面白がれば、人生の選択は彩りあるものになっていく。【小筆】

“人生は選択の連続だ”。
よく聞くその言葉は本当にその通りで、選択によって自分の未来だけでなく過去も変えられているような気がする時さえある。
だから、人は怖くてたまらなく不安な気持ちになる時があるし、もう1つを選んだ時の自分を想像して「こうしたらよかった」なんて後悔したりなんかする。
誰もが自分の選択に自信を持って進んでいきたいと望んでいるから。

そんな時、「なるようにしかならないんだから。“ここ”だけを見て、できることだけを考えれば良いのよ。」と、まるでお母さんのように柔らかい声で伝えてくれたのは有田で陶磁器作家として活動する小筆(こふで)さんだ。
小筆さんがつくる器は、絵本に描かれるような淡いタッチの絵付と手びねりで生み出される緩やかなフォルムで、使う人の心を思わずほっこりさせる。地元の窯元(しん窯)での勤務を経て24歳で独立し、途中に子育て等で活動を一時休止したものの2018年より「小筆」として作家活動を再開した。

今回は、作家を生業にすること、若くして独立したこと、一時活動を休止、そして再開をしたことなど、「選択」を繰り返してきた小筆さんが、変わらず大事にしてきたものについて聞きました。

東京から佐賀に移住をしてきた、まさに人生の選択をしたばかりのライター草田が聞き手です。

選択すること、変えること、変わることがもっと前向きなものになるためには、どうしたら良いのだろう。
小筆さんの言葉からそんな問いのヒントとなるエッセンスを受け取ってもらえたら嬉しいです。

 

あたたかな世界を描きたい

生粋の有田っ子だったという小筆さん。

「有田工業高校のデザイン科を卒業して、先生の勧めで窯業大学校に入りました。これといった動機は無かったけど意外と夢中になったというか、興味が湧いたんです。絵を描くのも、何かを作るのも好きだったからフィットしていたんだと思います。」

その後、窯元に就職して成形から絵付に至るまでの全工程を学びましたが、わずか3年という期間で独立を決めます。

「工程の中でこれはやっちゃいけないということもあるけれど、ルールにはしたくなくて。マニュアルを渡されて、これ通りにやってと言われると窮屈で俄然やる気を失うんです。想像力がそこでストップしちゃうから。」

思い返せば、幼い頃より想像したものに近づけるように作っていく感覚が好きだったとか。
渡されたフェルトで人形を作ってみたり、毛糸があったら「こんな形になったらいいな」と気ままに編んでいったりしていたそう。

こうした感覚を守り続けていくために小筆さんは“独立”という選択をすることにしました。
しかし、たった3年。不安や怖さは無かったのでしょうか。

「怖さとか全くなかったな。やるって決めたから。考えたら怖くなる。恐れをベースに考えると思考やひらめきがゼロになっちゃう。やるってなったらその明るいエネルギーは人を動かすでしょ。できることを考えたら、何をしたらできるかなとなる。友達と食事に行く時、決めたら仕事やっつけてなにがなんでも行くでしょ。それと同じでなんとかするじゃない。」

なるほど…!直感で動くその朗らかなパワーはまるで子どものよう。
そのように選択できる理由には、小筆さんが作品を通じて届けていきたい揺るがない世界がどっしりとあるからだ、ということに気づきました。

 

「作ることは、自分の中の世界を昇華させることだから結局は1人の世界。誰かのためだけど、その時に出会ってくれた1人のためのものでしょ。例えば、朝のバタバタしている時に自分の器がある。マグカップ持ってコーヒー飲んでもらったり、とか漠然とイメージがあって。こういうのがあったらいいなという想像をして作っているのよね。」

言葉の奥からじんわりと伝わってくる、小筆さんが届けたいあたたかな世界。はっきりとは見えなくても、そんな世界の輪郭に思いを馳せながら器を作っていきたい。
独立するというその選択は、心を尽くしたいという作家としての覚悟だったのかもしれません。

 

なんでもシンプルに考えてきた

独立して約20年。当時から現在にかけてその覚悟に変化はなかったのかが気になるところ。

変わったこともあるかもしれないけれど、器を作って売るということや買ってもらうということは、ものを介して人から人へのメッセージが循環しているシンプルで変わらないことなのだと、小筆さんはこのように話します。

「独立した頃からですが、ここは皆んなが商売をしている町だから、お店をやりますよって言ったら誰かが興味を持ってくれると思ってたんです。そうすると自然と人と人とが繋がっていきます。例えば新聞の取材記事が載ったりすると “どがんね” って誰かが訪ねて来たり、付き合いが深まってギャラリーやるけど展示しませんかと声をかけてもらったり。陶器市で買ってくれたお客さんが次の年も来てくれたりなんかして、自分の作ったものがシンプルに言葉じゃないメッセージとして循環していたのかな。」

紡がれるその言葉からは、小筆さんが手に取る人のことを丁寧に考えていることがよく分かります。
とはいえ、約20年。そうシンプルにはいかない変化もあったのではないでしょうか。

「もちろん自分が結婚して子育てをしている状況だから、環境は変わったよね。あとは子どもを愛しむ気持ちとか、お母さんの柔らかさとか、そういう良い変化もあるかもしれない。でも、ここの空とか町とかは変わらなくて。変化って小さな日常を重ねていったものだから、何があっても今この瞬間しか見ないようにしてるかな。」

変わるものはあっても、それは変わってきての今という結果に過ぎない。そんなシンプルな思考に至ったのはお子さんを授かって、制作する時間が少なくなったからだそう。

「余計なことを考えていたら何もできなくなってしまうし、何かに抗うのも好きじゃなくて。重く捉えようとしたらそうなっちゃうでしょ。曇ってきたから気分悪いな、とか。嫌なことがあっても受け止めるだけで変えようとしない。だって、自分を変えることなんてできっこないんだから。」

過去と今、今と未来の自分を比べては、今の自分を確かめたくなることがあるかもしれません。
しかし、そんな小筆さんの在り方からは“変えることのできる瞬間は今しかない”のだということに気づかされます。

立ち止まってみること

「今」というこの瞬間に意識を向けている小筆さん。
しかし、その「今」がしんどくなってしまう時はどう自分に向き合っているのでしょうか。

独立して16年ほど経ったころにした、活動を休止するという選択。段々と作るものと気持ちの間が離れていってしまう感じになったといいます。
当時を振り返りながら立ち止まることについてこのように話します。

「一旦手を止めるのは何にせよ大事な時があるでしょ。頑張るのは今じゃないなって。何を大事にするのか見誤らないようにするために空気を入れ替える時間だと思ってました。ものづくりってアウトプットだから、過呼吸にならないように深呼吸をしようかなって。」

約5年間、別の仕事をしながら距離を置いてみたことで、「やっぱり、自分で器を作りたい」と元の気持ちに立ち返ることができたのだといいます。

今でも沢山の人に会って影響を受けたあとは、必ず自分に立ち返る時間を敢えて作るようにしているのだそう。少し片付けをしてみたりお子さんと散歩したり、育てている野菜の葉っぱをいじってみたりすることで落ち着いて元の位置に戻っていけるといいます。
ご自身だけでなくご家族に対しても似た姿勢で向き合っているように感じられました。

「つい主観であれこれ言ってしまうこともあるけれど、例えば家族に問題が起こったとしても自分がこうだったからと相手を変えようとせず、どういう気持ちや状況からだったのか分かるのを待ってからにしよう、と思っています。」

自分のことも相手のことも決して変えることはできないから、回復できるまで敢えて立ち止まってみる。それは、削れるようになるまで、温度が下がるまで、お客さんが来るまで、「待つ」 作家としての心構えと同じなのかもしれません。

おもしろいは原動力

活動を休止していた時は保育園の調理員として料理をしたり、電柱の碍子を作る会社で苦手だった精密さを求められる仕事に挑戦していたという小筆さん。これまでの仕事とは全く異なったものでありながら、全てが面白かったのだといいます。その時のことを思い出しながら度々使っていた「おもしろい」という言葉。
小筆さんにとっての「おもしろさ」とは一体なんでしょうか。

「幼い頃から作ることを応援する人たちが周りに多くいて、アイディアを出せば“そういうのも面白かね” と肯定した上でどうしたらより良くなるのかを引き出してくれるのが多い町でした。だから、良い方向に持っていくことしか考えていないんだと思います。」

小筆さんにとって面白がるという精神は物事を良い方向に持っていく力そのもの。それは灯す屋が目指す「面白い未来をつくること」とどこか同じ方向を向いているように感じます。

これからを生きるということは自分で選択をしていくということ。しかし、選択を目前にすくんでしまったり逃げたくなる時もある。
そんな人たちに向けて小筆さんは最後にメッセージを伝えてくれました。

「やりたいことがある人は既にギフトを受け取っているんだから、やらないともったいないんじゃないかなと思います。時間やお金が無いからと諦めるきっかけをつくろうとするかもしれない。だけど、やりたくないことをやめていったら、やりたいことしかきっと残らないから。難しいことを考えずに、やりたいってことはやってみてはどうかな。」

寒くなってきた冬の空を眺めながら、温かいお茶を飲んで話を聞いていると私までじんわりと心が解放されていくような感覚に。
「今のままで大丈夫。」
小筆さんが伝えてくれるメッセージは今を頑張る全ての人を勇気づける力を感じました。

「憧れている世界とか風景が器に映れば素敵だと思ってるから作るの。あたたかい空気があって、風がふわふわ、草木がそよそよって。」

目の前の光景をそんな風に捉えることができるかは自分次第。在り方次第で、きっとどんな人生の選択も良い方に向かっていくと信じたい。
どうかこれから続くあなたの物語がよりおもしろいものとなりますように。

 

聞き手・文章:草田 彩夏
写真:中島 紳一郎

小筆のプロフィール

佐賀県有田町生まれ。
有田工業高校デザイン科、有田窯業大学校を卒業後、地元の窯元に就職。
3年後、独立し個人作家としての活動を開始。途中に子育て等で活動を一時休止した。
2018年より「小筆」として作家活動を再開した。
手びねりで生み出される緩やかなフォルム、やさしくあたたかみのある絵付が特徴的な作品をつくっている。