2022.11.29

夢を叶えるショートカットがある!有田で取り組む子どもの居場所に込められた想い【イベントレポート】

クリエイティブ 中村俊介(株式会社しくみデザイン)
夢を叶えるショートカットがある!有田で取り組む子どもの居場所に込められた想い【イベントレポート】

夢を叶えたい!

誰もが一度はそう思ったことがあるでしょう。
私もその一人です。

子どもの頃はプロのサッカー選手になりたくて、朝から晩までボールを追いかける少年でした。

夢は、いつかどこかで誰かが叶えてくれるものではない。では、夢を叶えた人たちはどうだったんでしょうか?実は、たくさんの失敗を乗り越えたり、進む道を変えたりしながら前に進んできたのかもしれません。

これからご紹介するイベントは、私にとってこれからの生き方を見つめ直そうと思うきっかけとなるものとなりました。

なお、記事の最後に当日の講演会の動画を見ることが出来ます。よろしければ、そちらもご覧ください。

書き手:石橋真太
写真:橋本優

 

世界一やさしいプログラミング教室

2022年10月3日、灯す屋は株式会社しくみデザイン(以下、しくみデザイン)代表取締役・中村俊介氏(以下、中村さん)をお招きし、「世界一やさしいプログラミング教室」と題した講演会を開催しました。

しくみデザインは、2015年、誰でも簡単にゲームをつくることができる創造的プログラミングプラットフォーム「Springin’(以下、スプリンギン)」を開発しました。これは、スマホやタブレットを使って、ゲームをつくったり、遊んだり、そのゲームを誰かと共有することができるアプリです。
この秋より、灯す屋はこのスプリンギン(※1)を活用して、“灯すラボアフタースクール”という名の「子どもの居場所」を運営しています。スプリンギンが子どもたちに与えてくれる豊かな創造力、そしてスプリンギンのある居場所の意味を多くの皆さんに伝えたいと思い、この講演会を開催することになりました。

講演会は二部構成。

第一部は「世界一やさしいプログラミング教室~想像力は鍛えられる~」と題して、中村さんにスプリンギンがつくられるまでのお話しを伺いました。そして第二部は「STEAM教育×スプリンギンで有田町がもっとおもしろくなる」と題して、有田町長 松尾佳昭氏にもご参加いただき、灯す屋の代表である佐々木の進行のもとでトークセッションが繰り広げられました。

30名程お越しいただいた中には、有田町内だけでなく町外からの参加者も。教育関係者だけでなく、スプリンギンや有田町のSTEAM教育に興味がある方にご参加いただきました。

※1 灯すラボアフタースクールでは、スプリンギンの教育版である「スプリンギンクラスルーム」を活用しています。

夢を叶えるショートカットがある

「僕がKAGURA(※2)をつくったのは、みんなの前で演奏をしたかったから。実はこれで夢が一つ叶いました。」

中村さんは昔から今の仕事をしようと思っていた訳ではありません。子どもの頃から簡単なプログラミングをしたりものづくりが好きだったりしたとはいえ、やりたい仕事をはっきりと決めてはいませんでした

「進学したところがグラフィック系の学部ということで絵が得意な人が多く、今から絵の上手さで勝負しようと思っても絶対叶わないと思ったんです。そこで、周囲の人たちがやっていないが自分が好きなことを考えた結果、以前から少しプログラミングをやっていたのでこれをやっていこうと考えるようになりました。」

はっきりとした目標やとびきり優れたスキルやアイデアがなくても、すでに身につけたものや過去の経験が大きな転機になる可能性があるのかもしれない

中村さんの話を聞いていると、なんだか自分にもチャンスがありそう!とドキドキします。

プログラミングができれば、自分で道をつくることができます。だけど、プログラミングは難しいと思われていて誰もなかなかやらない。もったいない。だから、プログラミングを勉強しなくてもつくれるくらい簡単にすればいいと思ったんです。」

自分の夢を叶えるだけじゃなく、誰もが夢を叶えられるような環境を整えようと考えて仲間と一緒につくりあげたアプリ。そうやって生まれたのが「スプリンギン」なのです。

「夢を叶えるショートカットがあります。それは自分で作ればいい。」
真面目にコツコツと努力することで、いつか夢は叶えられる。
そう教えられて育ってきた自分には、ハッとさせられた瞬間でした。ショートカットをつくってもいいんだ。自分でそこに道をつくることに、おもしろさと価値があることを中村さんは教えてくれます。

「プログラミングというといろんなことを先に覚えないといけないイメージがありますが、スプリンギンはやっていくうちに覚えることができます。そうやっていくと、こういうものを作りたいからどう作るか、という逆算ができるようになるんです。」

実際に子どもたちと一緒にスプリンギンを触っていると、初めはただ言われた通りに絵を描いて動かしていただけの子も「こんなゲームをつくりたいけどどうしたらいい?」と聞いてくることが増えてきました。その1つ1つの学びが夢を叶える道に繋がっていると思うと…、ああ、早く子どもたちとスプリンギンをやりたい!(笑)

※2 KAGURA:しくみデザインが2013年にリリースした、人の動きやジェスチャーなどを見分けて、自由に楽器を奏でることができる新世代楽器アプリ。

近所のおばちゃんによく怒られた遊び場のような場所になってほしい

続いて第二部。ここからは中村さんに加えて松尾町長も登壇。灯す屋の佐々木が進行を務めます。

佐々木:松尾町長が考える“有田版STEAM教育”とはどういうものなのでしょうか。

松尾町長:これからの時代を生きるために、STEAM教育は必要だと思っています。(既存のSTEM教育(※3)に追加された)「A」という部分はArtやリベラルアーツ(一般教養)だけでなく、Athletic(運動)でもAritaでもAgriculture(農業)でも何でもいいと思っています。

中村さん:その考えはすごくいいですね。試験の点数に対する評価だけではないことにみんな気づいているのに変えられない。そんな現状の中で、STEAM教育は点数以外の色んな部分にも着目できるので、救われる生徒もいるはず。」

佐々木:運動が得意とか有田が好きとか色んなことを褒めることができる教育というのは、すごく良いことだと思うし、きっとみんなが共感できることだと思います。

試験の点数だけを見るわけではなく、固定観念に縛られずに得意なことを褒めて伸ばそうという有田版STEAM教育。松尾町長の熱いメッセージに期待が膨らみます。

※3 STEM教育:STEMとは科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の4つの教育分野を総称した言葉であり、STEM教育とはこれらの分野に力を入れた教育のこと。

中村さん:今の世の中は、スマホやタブレットがあれば何もしなくても便利で楽しく楽チンで気持ちよくというサービスが次々とつくられています。そうすると、どちらかというと受け身になってしまうんですよ。それだけになってほしくない。同じ端末なんだけど、与える側にもなれるということに早い時期に気づいてほしいという思いがあります。

スプリンギンは、他のプレイヤーが作成したゲームを遊ぶだけでも楽しめます。

ただ、遊ぶだけでは気付けないことがあります。それは、つくることの喜び自分がつくったゲームで誰を喜ばせようか。次はどんなおもしろいものをつくってみようか。そんな風に誰かを楽しませたいという考えを持てるようになったら、生きる楽しさは倍増するような気がします。

さらに、子どもが遊ぶ場所がなくなってきていることに違和感を感じているという松尾町長。

松尾町長:昔は近所の遊び場で生き方を学んでいました。近所のおばちゃんにこんなことを言ったら怒られる、ということも小さなコミュニティで学んでいました。

中村さん:よく考えたら、同じ学年で集まるなんてのは学校だけじゃないでしょうか。ゆるくいろんな人が集まる場があれば、社会に出て戸惑うことも少なくなりそうです。強制じゃなく、多様な人に自由に出会うことができるのは大切だと思います。

佐々木:松尾町長の“小さな失敗を繰り返しながら学んでいく”というお話は、どこかスプリンギンにも共通する点がありそうな気がします。昔は生活の中で学んでいたこと。それがゲームになるとスプリンギンのようなものになるのではないかと思いました。

多様な人や世代との関わりの中で、対話したり小さな失敗をしたりして学んでいく場所。それが、これから町内各所で作られて欲しい「子どもの居場所」の理想形に近いのかもしれません。

佐々木:灯すラボアフタースクールがスプリンギンを導入している大きな理由としては、点数だけじゃなくて褒められる回数やパターンを増やしていきたいから。成功体験をたくさんできる場所をつくりたいと思っています。

 

夢を叶えるショートカットは、楽につくれるものではない。それでもその過程を楽しむために頭を使い、手や足を動かす。自分の道とは、その中でのトライ&エラーの積み重ね。もしも今あなたが失敗をしていると感じるのなら、それは道づくりをしている最中ということに他なりません。

有田町のSTEAM教育とスプリンギン。それぞれがリンクし合い有田に馴染んでいくと、考えてつくる人がどんどん増えていく。それこそが、灯す屋が描くおもしろい未来なのだと思っています。

講演会の動画はこちら

YouTube有田ケーブル・ネットワーク公式より

中村俊介(株式会社しくみデザイン)のプロフィール

名古屋大学建築学科を卒業後、九州芸術工科大学大学院(現・九州大学芸術工学研究院)にてメディアアートを制作しながら研究を続け、博士(芸術工学)を取得。
2004年に九州工業大学講師就任、翌2005年にしくみデザインを設立する。2013年に体の動きで演奏するAR楽器「KAGURA」が米Intel社主催のコンテストで世界一になるなど、日本のみならず世界各国で数々のアワードを受賞。
また、世界中すべての人が創造的になれるようにとの想いから、創造的プログラミングプラットフォーム「スプリンギン」を開発。