灯す屋にとって、切っても切り離せない一人の女性がいます。
武市 京子(たけいち きょうこ)さん。令和6年2月現在、佐賀大学の4年生です。
どうして切り離せない存在なのかと言うと、
彼女と灯す屋はこの5年半ずっと寄り添い歩んできたから。
灯す屋が活動をしていく上で彼女の存在は欠かせなかったし、
彼女が起こすアクションに対して、灯す屋はそっと背中を押し続けてきました。
その関係は、灯す屋にとって理想的な関わり方の一つ。
「こんなカタチっていいな」と誰かに思ってもらえたら嬉しくて、
彼女に相談し記事にさせていただくことになりました。
今回の取材・記事作成は灯す屋代表の佐々木元康、
写真は副代表の橋本優が担当しています。
長年の付き合いがある私たちを、彼女自身に指名してもらいました。
なお、取材(対談)の様子は今回スタートしたポッドキャスト番組「灯すラボ on Podcast」でも聴くことができますので、良かったらそちらでも楽しんでみてください。以下の対談記事は、一部編集して掲載しています。
駆け出しNPOへの訪問者
佐々木:武市さん、よろしくお願いします。
武市さん(以下、武市):よろしくお願いします。
佐々木:武市さんが大学卒業ということで、この5年半の歩みを一緒に振り返っていけたらと思ってます。
武市:はい、嬉しいです。
佐々木:出会いは覚えてますか?
武市:高校2年生のとき、春陽堂(当時の活動拠点)で話したのを覚えてます。「まちおこしに興味があるので、お話聞かせてもらえませんか?」みたいな感じでDMを送ったと思いますね。
佐々木:どんな話をしたのかはっきりと覚えてないけど、高校生が有田のまちづくりに興味があるって自分から言って来てくれたのが初めてで、すごく嬉しかった。
武市:そのときの話で、『うちやま百貨店』が自分の中で(インパクトが)一番大きくて。自分はアートとか絵を描いたりするのが好きだったから、それに絡めて何かやりたいな。うちやま百貨店の美術館バージョンみたいなのをやりたいな、と話したのを覚えてます。
灯す屋は、このときNPO法人として設立して2週間弱。佐々木の地域おこし協力隊の活動が終了したばかりで、正直に言って仕事もお金も全くありませんでした。そんな不安な船出の時期に、目を輝かせた彼女との出会いに背中を押してもらったのは、実は私たちのほうだったような気がします。
その後、彼女は高校を卒業するまでに、有田町役場や移住者が営むレストランを自ら訪問して話を聞いたり、灯す屋が主催する移住交流イベントに参加したり、積極的に活動を続けます。
いろんな大人に出会う中で、湧き上がってきたのは「即戦力になりたい」という欲求。アイデアを形にする力をつけようと、佐賀大学芸術地域デザイン学部に進学することを決めました。
外に行けないからこそ地元で出来ることを
しかし、彼女が入学したのは新型コロナウイルスが蔓延し始めた2020年。なんとか高校の卒業式はできたものの、大学の入学式は中止に。授業も2年生までずっとオンラインとなり、視野に入れていた海外留学も叶わない状況が続きました。
一方の灯す屋はというと、2019年からスタートした「ふるさと寄附金」や「ちゃわん最中」などの事業展開もあり、組織としての安定感が生まれ始めたタイミングでコロナ禍に突入。主に取り組んでいた空き家や移住に関する事業はほとんどストップし、自分たちにできることは一体何だろうと模索している時期でした。
ただ、「外に行けないからこそ地元に目を向けられた」と武市さんは言います。
武市:(佐賀大学について、入学前に)調べている中で、行政との距離が近いとか、地域というフィールドへ学生のうちから出て学んでいけるのがすごく魅力だなと感じていて。大学生って自分から学べる機会かなと思ってたので、それこそ灯す屋さんと一緒に何かやることは考えてました。
佐々木:2020年の秋から、『うちやま百貨店』のインターンに参加してくれたよね。
武市:あのときは関所を立てて、検温とか消毒をしてから地区内に入ってもらいましたね。画期的でしたよね(笑)。オリジナルのマスクをつくったり。
佐々木:小松(大介)さんと一緒に「レジ前おむかえアート」(※)をやったり、描いたアマビエを探すイベントをやったり。コロナで色々と制限され続けていたこともあって、持て余していた何かを一気に発散させた感じがあるね。
武市:コロナだったからこそ色んな企画が生まれた可能性もありますよね。
※小松さんを取材した記事はこちら
武市さんをはじめ、多くの大学生たちが灯す屋に関わって一緒にイベントを運営してくれたことには、本当にパワーをもらいました。
武市さんは、翌年以降も『うちやま百貨店』の運営に携わり続け、さらにシェアハウス兼コワーキングスペース『灯すラボ実験室A』のDIYイベントにも参加。学生たちとの関わりを続けていく中で、灯す屋の活動もすこしずつ広がっていきました。
そして2022年は、武市さんが所属する学生サークル「Make-Sense」と灯す屋との関わりがさらに深まった飛躍の年に。彼女が主体となって「1㎡ Store(ワンエムストア)」という企画が立ち上がります。
佐々木:1㎡ Storeのコンセプト「1 moment 1 meet」って、日本語だと「一期一会」だよね?
武市:そうですね。Make-Senseに所属するアーティストが、そこにしかないものや人との出会いを通じて制作や展示をすることによって、そこでしかできないものができる。一期一会の掛け算によってアーティストの可能性を広げたい、と思いで企画しました。
武市さんは、1㎡ Storeの企画に加えてデザインも自ら手がけています。ただイベントをディレクションして裏方に回るだけではなく、自分の力で伝えようとするのが彼女のすごいところ。
佐々木:9月の「きいろ展」の頃から、自分が前に出てくるようになった印象があります。
武市:ただただ黄色が好きで、周りの人が「いいね」って言ってくれて。好き好き言い続けていただけなんです。
佐々木:いつもニコニコしてるから何だか応援したくなるんだよね。
たくさんの人たちの背中を押す存在に
2022年には「うちやま百貨店」もリニューアルし、空き店舗の活用を目的とするのではなく、出店者の人たちに新たなトライをしてもらい、そのお披露目の場とすることを目的として開催しました。
また、灯す屋では「灯すラボ」という複合的なプロジェクトをスタート。そのうち「灯すラボアフタースクール」という子どもの居場所をつくる事業には、武市さんにスタッフとして関わってもらいました。初めは子どもに苦手意識を持っていたそうですが、今では街なかで「キイロマーン!」と声をかけられるような身近な関係に。
灯す屋との関わり方も少しずつ変わってきました。
佐々木:武市さんが有田で関わってくれた人たちと繋がりを作って、自分で次の企画をつくって。色んな大人たちが武市さんに吸い寄せられていってるような印象がある。
武市:うちやま百貨店に出店された方々が、12月に佐賀市内でひらいたフリマイベントにも出店してくれました。うちやま百貨店の打上げのときに誘ってみたら、「じゃあ、出よっか」って。
佐々木:今回(2023年)のうちやま百貨店で4度目のインターンだったんだけど、今年のメインはやっぱり1週間後のイベントだったよね。
武市:「蓋を開ける展」。これは、うちやま百貨店の美術館バージョンです。佐々木さんと初めて出会った高校2年生のときにやりたい!って言った企画ですね。
佐々木:うちやま百貨店と同じ空き店舗を使って、色んなアーティストたちが制作と展示にチャレンジしてくれたよね。みんなの楽しそうな表情が印象的でした。しかし、5年越しに実現するなんて本当にすごい!
武市:やってみて、地域の人たちと外から来る人たちを繋ぐ機会を、そして出てくれたアーティストと有田町を繋ぐ機会をつくることができたなと思っています。特に、初めて有田を訪れたアーティストから「めちゃくちゃ良いところですね」と言われたのは嬉しかったですね。あとは、続けていくことってやっぱり大事だなって。うちやま百貨店みたいに、「こういう目的でやってるんだ」って地域の人たちが知ってくれたらもっとおもしろくなると思います。
灯す屋の活動に継続的に協力し、そこで得た出会いや経験をうまく利用して自身の活動に活かす。まるで二人三脚のような形で、武市さんと灯す屋はこの5年間、いい相乗効果を生みながら歩んできました。
未知の世界でも、まずは飛び込んでみる。
自分のやりたいことをはっきりと言葉にする。
置かれている状況をポジティブに捉える。
遠慮なく周りの人たちを頼る。
あまり速くないけど、一歩ずつ。そんな武市さんの歩み方は、このウェブサイトで紹介している人たちに共通している点かもしれません。
これからが楽しみな武市さんのストーリーは、まだまだ続きます。
取材(対談)の音声はこちら
武市京子のプロフィール
有田町出身、伊万里高校卒業、佐賀大学芸術地域デザイン学部。
小さい頃から絵を描くのが大好きで、今は地域とデザインを学んでいます。黄色が大好きです。